だのようであった。
 その頭部は、しいの実のように、大部分は円筒形であるが、上は、しいの実のようにとがっていた。そしてまん中あたりに、目の穴ではないかと思われるものが二つあった。
 それが目だとすると、狐《きつね》の目のようにつりあがっているといわなくてはならない。
 そういう異様ないでたちの一団が、みんなでかれこれ四、五十名も、峰々から下をうかがっているのであった。太陽の光が、彼らの頭やからだの側面を、くっきりと照らし出していた。
 とつぜんあたりが暗くなった。
 太陽が没《ぼっ》したのである。そして夜が来たのだ。
 月世界においては、空気がないために、地球上の日暮のように、じわじわ暗くなるようなことはなく、いきなり暗くなる。たそがれのうす明りなどというものはなく、いきなり闇がおとずれるのだ。
 日の暮れるのを、異様な一団は待っていたようである。暮れると同時に、異人《いじん》の中から一人が立ち上った。と、彼のからだがほたるいか[#「ほたるいか」に傍点]のように光った。全身に、光の点々があちらこちらにあらわれ、それが明滅《めいめつ》する。
 と、そのそばにいた他の異人が、またすっと立ち上って、全身をほたるいかのように光らせる。
 間もなく、異様な一団の全部が、みんな自分のからだを気味わるく光斑《こうはん》で明滅させるようになった。
 すると最初にからだを光らせた者が、急に光の明滅をとめた。そのかわり彼の首の下のところに、光の輪が出来た。それはもう明滅しない。彼は峰を越して、そろそろと下りはじめた。他の異人たちも、いつしか同じように、首の下だけに光の輪をこしらえ、頭目《とうもく》らしい者のあとについて斜面《しゃめん》を下っていった。彼らの動作は、いかついからだのわりに身がるに見えた。
 一方、マルモ探検隊の方は、急に日が暮れたものだから、一同はそれぞれ空気兜《くうきかぶと》のひたいのところにつけてある電燈をつけた。これがつくと、すぐ正面にあるものには光があたって、明るく見える。
 それから、九台の装甲車のヘッドライトを全部つけて、ルナビゥムの野天掘《のてんぼ》りの坑区を照らさせた。そして仕事をすすめたのであった。そこへとつぜん、どどどどとすごい地ひびきをさせてあらわれた異人の群だ。口もきかずに探検隊員めがけて組みついた。
「あッ何者だ」
「なにをするッ。あ、隊長。あやしい奴です」
「らんぼうするな、しかたがない。隊員はこっちへ固《かた》まれ。そしてらんぼうする相手に反抗しろ」
 マルモ隊長は、ついに争闘《そうとう》を命令した。
 このらんぼうなる異人の一団は、何者であろうか。


   大暗闘《だいあんとう》


 なにしろその異人《いじん》たちはなかなか力があって、マルモ探検隊員は圧迫されがちであった。その上に人数も相手の方が倍ぐらい多いのである。形勢はよくない。
 隊員たちは武器を持っていないわけでなかった。だがマルモ隊長は、それを使うことを命じなかった。隊長としては、出来るだけ平和的手段でもって事をかたづけたかったからである。だが、困ったことに、相手とはことばが通じない。電波を出して、
「もしもし、君たち、らんぼうは、よしたまえ。話があるなら聞きますよ」
 と呼びかけても、相手はさっぱり感じないのであった。
 その上、相手は力がある。マルモ隊長は、隊員を一つところにあつめて円陣《えんじん》をつくり、まわりからおどりかかって来る相手めがけて、そのへんにころがっている大きな岩石をなげつけさせた。そうして相手を近づけないようにするためだった。
 月世界の上では、同じ大きさに見える岩石《がんせき》でも、地球の上で感ずる重さの六分の一にしか感じない。だから大きな岩石を隊員はかるがると持ちあげて遠くまでなげとばすことが出来た。
 ところが異人たちは、それには閉口《へいこう》せず、遠まきにして目を光らかせ、すきをみては、とびこんで来た。岩石をなげつけられても、けがをして血を出すようでもなかった。
「ははあ、こっちが疲れるのを待っているのだな」
 マルモ隊長は、そう気がついて、どきんとした。なにしろ相手は、ますます活発《かっぱつ》にあばれてみせるのだった。
 そのうちに、相手の一部が、場所をかえて、装甲車の方へ近づいていった。
「あ、装甲車をうばわれては、たいへん」
 マルモ隊長はおどろいて、隊員の半分をさいて装甲車の方へ急行させた。
 その人たちは、装甲車の中にはいって、それを運転して走りだした。すると異人たちは、それを追いかけた。平地なら装甲車はどんどん走れるが、ここはトロイ谷《だに》である。道はでこぼこしている上、どっちへ走ってもすぐ崖《がけ》につきあたりそうになる。そうなるとスピードが出せない、いつの間にか装甲車の上に異人たちが三
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