」
「それはやって見なければ分りませんが、私にこれから四時間をあたえて下さい。出来るだけのことをさぐってみます。装甲車を一台と四、五人を私にかしておいて下さい。そしてその間に他の装甲車でもって、ルナビゥムを掘りに行って下さい。私は四時間あとにそこへ追いつきますから……」
カンノ博士は、つつましく、そういった。しかし博士は自信をもっているらしかった。
「では、そうしよう。人選をしたまえ、カンノ君」
隊長が許した。
「ぼくを、その一人に採用して、ここへ残していって下さい」
正吉は、まっさきに名乗りをあげた。
「なんだ、少年がここに残りたいのか。よろしい。正吉君は員数外だ。希望なら残ってよろしい」
マルモ隊長は笑いながら、正吉の希望をいれた。
カンノ博士は、そこで五人の人選をした。カコ技師の外は、大した腕のある者はいなかった。
それが決って、隊長以下は三台の装甲車に乗り、いそいでこの倉庫第九号から出ていった。あとはカンノ博士ほか六名が残った。
「われわれは一時、探偵になったわけです。しっかり頭をはたらかせて、なぞを早くといて下さい。まず人骨の方から調べにかかりましょう」
博士は倉庫の入口の方へ歩きだした。六名の者は、そのあとに従った。人骨はさっきのとおり洞門のそばに横たわっていた。風化《ふうか》して、ばらばらになっていた。しかし骨片の位置とその数からして、一人の人間の骨であることが誰にもよく分った。
「ねえ諸君。こういうことを、おかしいと思いませんか」
とカンノ博士がすいり[#「すいり」に傍点]の糸口をほどきはじめた。
「この人骨は空気服もなんにも着ていないです。すると、行き倒れになった他の探検隊員だとは考えられないです。もしそうなら空気服ぐらいは、ちゃんとからだにつけているはずですからね」
「なるほど」
他の隊員もあいづちをうった。
「するとこの人骨の主は、自分でこの洞門《どうもん》の扉をやぶり、中へはいってこの位置でぜつめいしたとは思われません。つまり何者かが、この人骨の主の死体をこの中へ投げこんでいったとしか考えられないのです。そうは思いませんか」
「いや、それにちがいないと思います。博士のすいりは、なかなかするどいですね」
「すると、何者がこんなことをしたか、扉をあのように曲げることも、ふつうの人力《じんりょく》ではできません」
博士がことばをとめた。誰も意見をいう者がない。
「ぼくたち探検隊員をおどかすために、こんなことをしたのではないでしょうか」
正吉少年がいった。そんな気がしたからである。
「おどかしのために……」
博士も他の隊員も、正吉のことばに、びくっ、としたようである。
「そうかもしれない。月世界にはいろいろ、とうとい物がある。われらマルモ探検隊だけに独占させてはならないと思って、われわれを競争相手と考えている者もいるでしょう。その連中が、われわれに対してけいこくをこころみたのかな。それにしても人骨をほうりこんで行くとは、なんというやばんなやり方だろう」
博士はそういってまゆをひそめた。
かすかな人名《じんめい》
正吉は、人骨《じんこつ》にもなれ、こわごわながら、そばへよって人骨をながめた。
「おや、ハンカチを持っているぞ、この人骨は……」
骨は白く、ハンカチーフも白いので、今まで気がつかなかったが、ばらばらの人骨の下に一枚のハンカチーフが落ちていたのだ。
この正吉の発見に、カンノ博士たちもおどろいてそばによった。そして博士は骨を横にのけて、ハンカチーフをひろいあげた。そしてひろげたり、裏がえしたりしていたが、
「あッ、ハンカチーフには、名前が書いてある。すみのあとがうすくなっているが、たしかにこれは名前だ」
と、おどろいた様子。
「なんという名前ですか」
「待ちたまえ。ええと、モウリクマヒコと書いてあるらしい」
「えっ、モウリクマヒコですって、ちょっとそのハンカチーフを見せて下さい」
そういったのは、正吉少年だった。
「さあ、よくごらんなさい」
正吉はハンカチーフを見て、顔色をかえた。
「あ、これはぼくのおじさんのハンカチーフです。毛利久方彦《もうりくまひこ》といって、理学博士なんです」
「ああ、あの毛利博士。私も知っていますよ」
とカンノ博士がいった。
「しかし博士は十四、五年前にどうしたわけか行方不明になったままで、その後|消息《しょうそく》を聞いたことはなかった、するともしや……」
博士の声がかすれた。
「すると、この人骨はおじさんの骨なんでしょうか。おじさんは、たしか探検に出かけたまま帰らないといっていましたがこの月世界へ来ていたんですね。しかしおじさんは、なんというなさけない姿になったものでしょう。おじさん、おじさん」
正吉は人骨のそばにひざま
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