ない場合もある。だから月の世界に、修理材料や、とりかえ用のエンジンなどをたくわえておけば、地球まではもどれない故障ロケットも月世界に不時着して、故障をなおすことができる。それでわれらの探検隊は、ここに倉庫をおいてあるのだ。ここだけじゃない、月世界には、みんなで十五箇所に倉庫を持っている」
 カコ技師は、そういって正吉に説明をした。なるほど、もっともなことだ。火星へ行き、また金星へとぶようなとき、この世界の月倉庫は、たいへん重大な役割をするわけである。これほどの行きとどいた注意と、用意がなければ、宇宙探検などという壮挙《そうきょ》は成功しないのだ。なんでもいいから、ロケットは宇宙探検に成功するというわけではないのだ。
「すると、わがマルモ探検隊の乗っているロケットも、ここで故障が起ったんですか」
「いや、故障ではない。われわれの場合は、燃料の一種とするための鉱物を、この倉庫においてあるので、それを取りに来たのだ」
「やっぱりウラニゥムみたいなものですか」
「まあ、そうだね」
「地球を出るときにつんで行けばよかったのに、どうしてそうしないのですか」
「地球には、そのルナビゥムという貴重な鉱物がすくないのだ。この月の中には、かなりうずもれていると思われる」
 ルナビゥムとカコ技師は、正吉のまだ耳にしたことのない鉱物の名をいった。
 ルナビゥムについて、正吉はもっと話を聞きたいと思ったが、そこへ四台の装甲車がしずしずとはいって来て、カコ技師がたいへん忙しくなったので、もう話しかけられなくなった。
 カコ技師は、次の部屋へ通ずるげんじゅうな扉を、一つ一つ開いていった。倉庫は奥の方までかなりたくさんの部屋がつながっているようであった。
 ほりだしたルナビゥムを貯蔵してある部屋は、一番奥の部屋であった。その部屋へ通ずる扉をカコ技師が開いて、中をのぞきこんだとき、彼は電気にかかったように、からだをふるわせた。
「おやッ、これはへんだぞ」
 彼がおどろいて棒立《ぼうだ》ちになっているところへ隊長のマルモ・ケンやカンノ博士などがはいって来た。
「ほう。これはどうしたのかな」
「ルナビゥムがないじゃありませんか。この前、あれだけ集めて、この部屋にいれておいたのに……」
 隊長とカンノ博士もびっくりぎょうてんした。カコ技師はそのことを誰より先に気がついて棒立ちになっていたわけだ。
「これは一体どうしたというのでしょう」
「困ったね。ルナビゥムがないと、探検をこれから先へ進めることができない」
「誰がぬすんでいったのでしょう」
「この部屋から盗むことは、まず不可能なんですがね」
「そうかもしれんが、山ほどつんであったルナビゥムが見えないんだから、ぬすまれたに違いなかろう」
「これはどうもゆだんがなりませんよ。さっきの人骨のことといい、洞内の扉がひん曲っていたことといい、今またこの部屋からルナビゥムがぬすまれていることといい、これはたしかにみんな関係のあることなんですよ」
 カンノ博士は、探偵のようなことを口走った。
 そのうしろについて、この場の様子を見入っていた正吉にも、これは重大事件であることがよく分った。
(月世界にもやっぱり、どろぼう[#「どろぼう」に傍点]やごうとう[#「ごうとう」に傍点]がいるのかなあ?)
 正吉はそう思ってため息をついたが、そのどろぼう[#「どろぼう」に傍点]やごうとう[#「ごうとう」に傍点]よりも、もっとすごい者がこの月世界にいて、この場を荒したことを知ったら、そんな軽いため息だけではすむまい。


   鉱脈《こうみゃく》へ前進


 さあ、ルナビゥムがぬすまれた今、どうしたら一番いいであろうか。
 そのことについて隊長は、幹部の人たちを集めて、その場で協議した。
「たいへんな仕事になりますが、ルナビゥムの鉱脈《こうみゃく》のあるところへ行って、もう一ぺん掘るんですなあ。なにしろルナビゥムがなくては、どうすることも出来ませんよ」
「その仕事は、なかなかこんなんだ。それに日数が相当かかるかもしれん。あまり日数がかかることは困る。こんどの探検は、残念だけれど一時中止として、地球へ引返すことにしたらどうでしょう」
 隊長は、この二つの案を聞いていて、どっちも正しいと思った。どっちになるか、それを決定することはむずかしい。
「待って下さい」
 とカンノ博士がいった。
「私は、それを決める前に、この事件の真相を調べるのがいいと思いますね。誰がそれをしたか、何のためにしたか、そして倉庫からぬすまれたルナビゥムは今どこにあるか。そういう事柄《ことがら》が分ったら、われわれが今の場合どうすればいいかということが、自然に分るでしょう」
「なるほど、もっともなことだ。しかしカンノ君。事件を調べるのにどの位の日数がいるだろうか。それが問題だ
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