無言で「光る円筒」のはなれ業《わざ》をじっと見つめている。
ぼう然自失《ぜんじしつ》
カンノ博士の顔色が変わった。
スミレ女史も、息をつめて光る怪塔の方へ、大きな両眼をくぎづけにしている。
探検隊長のマルモ・ケンだけは、さすがに探検の場かずをふんでにやにや笑いながら怪塔を見まもっている。
「隊長。私は夢を見ているんではないでしょうね」
マルモ・ケンのところへ、よろよろとよろけて走ったのはカコ技師だった。
「夢じゃないよ。カコ君、しっかり目を開いて、よく見ておくんだな」
「隊長。いったい、あれはなんですか。何事があそこで起りつつあるんですか」
カコ技師は、かん高い声を隊長にぶっつける。
「わしには分らない。わしよりも、君の方が専門じゃないか」
「なんとおっしゃいます」
「宇宙弾《うちゅうだん》――といったようなものではないかね。とにかく、この火星の外から飛んで来たものにちがいない」
「宇宙弾といいますと、どんなものですか」
「おいおい、わしに聞くのはだめだよ。それよりも君の専門の眼でもって。あれをよく観察した上で、早くわしに報告してもらいたいな」
宇宙弾の説明を、マルモ隊長は、それ以上しないで、笑いにまぎらせた。カコ技師は、ようやく気がおちついてくるのをおぼえた。
(そうだ。技術者たるものが、こんな場合にあわてるのははずかしい。よろしい。あれはなんだか正体を見やぶってやろう)
彼は、双眼鏡《そうがんきょう》をとりあげ、光る怪塔へぴったりとつけた。
正吉とキンちゃんが、肩をならべて、光る怪塔をぽかんとながめている。
「あれあれ、すごいぞ、また一段高くなった」
「カン詰の塔みたいだよ。あの中に、なにがはいっているのかしらん」
光の塔は、だんだん高くなる。次々に円柱《えんちゅう》のようなものが落下して来て、すでにつみあげられた塔の上につきたち、塔をだんだん高くしていくのであった。
正吉には、塔がだんだん上へのびあがっていくのがふしぎで、おもしろかったし、キンちゃんは、あの円筒の中に何がはいっているのか気になった。
「いよいよ、これは奇怪至極《きかいしごく》じゃ」
二人のうしろで、老人の声がした。正吉がふりかえってみると伯父のモウリ博士であった。正吉は、いいときに伯父がそばに来てくれたので、よろこんだ。
「おじさん。あのすばらしい塔は、なんですか。何を火星人がこしらえているんですか」
正吉は、知りたいことをモウリ博士にたずねた。
すると博士は、首をちょっとかしげて、
「火星人といえば、例の水棲魚人のことだ。あれが火星で一番かしこい生物だという話だから、そうなると、水棲魚人の力で、あんなりっぱな塔が建つとは思われないね」
「じゃあ、あれを建てているのは何者ですか」
「さあ、それが分かれば、みんな分かるんだが、何者の仕業か見当がつかない。しかし人間業《にんげんわざ》とは思われないね」
「それでは、だれなんでしょうか。火星人でもなく、人間でもないとすると、いったい何者ですか」
「そばへ行って、よく調べてみないと、はっきりしたことは分からないが、ひょっとすると他の星から飛んできた生物の群れかもしれないね」
「ええっ、他の星から飛んできた生物ですって。そんな生物がいるんですか」
「いないと断言《だんげん》はできない。現にわしは月世界の生物を発見しとる。火星の生物は、水棲魚人という幼稚な生物にしても、他の星には、もっと高等な生物がすんでいて、それが火星へ飛来《ひらい》したのかもしれないね」
「地球と火星のほかに、生物のすめる星があるんですか。あれば金星ぐらいのもので、土星だの水星だの、海王星や天王星や冥王星《めいおうせい》なんか、生物がすんでいない星だということを、本で読んだことがありますねえ」
「わしが、さっき考えたのは、そういうわが太陽系の遊星に住んでいる生物のことではないのだ。もっと遠いところに住んでいる生物じゃないかと思うんだ。知ってのとおり、この大宇宙にはわが太陽と同じようなものが何億もあって、そのまわりには、わが地球や火星と同じような遊星がぐるぐるまわっているのが、ずいぶんたくさんあると推定されている。その中には、生物が住んでいる星がもちろんあるはずだ。そしてその生物が人間のようにかしこいものもあればまた人間以上にかしこいのもあろう。そういうかしこい生物は、人間が想像することのできないほど大|仕掛《じかけ》の仕事をやってのけるだろう、と思うね」
「あっ、そうか。するとおじさんは、あの光る怪塔をこしらえているのは、わが太陽系以外の星に住んでいて、人間よりもずっとかしこい生物だというんですね」
「いや、わしはまだそこまで、はっきり断定《だんてい》してないよ。とにかく、もっとそばへいって、よく調べた上で
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