ないと、なんともいえないが、そういうことも、頭の片すみにおぼえておくといいね」
「えらいことになったぞ」
 と、キンちゃんが、目をまるくして、ため息をついた。


   つのる恐怖


 光る怪塔はピラミッド型に十五階まで出来てようやくおさまった。
 おそろしさをしばらくおあずけにしておくと、まことに見事な建築物に見えた。
 マルモ探検隊では、基地に双眼鏡や望遠鏡をすえて、一秒といえども、怪塔から監視の目をはなさなかった。
 カコ技師などは、すぐにも怪塔のところへ近づいて調査をしたがった。しかしマルモ隊長は、それをゆるさなかった。
「もうすこし遠くから様子を見てからのことにしないと、危険だ。君たちは、われわれの宇宙旅行に必要な人なんだから、そういう危険が考えられるとき、行くのはやめてもらいたい」
 隊長は、そういった。
 これには、カンノ博士とスミレ女史の進言《しんげん》が、一つの力になっていた。
 この二人の科学技術者は、光る怪塔に対して、強い警戒心をおこしていた。とにかく、探検隊の一大危機が来たと考えるのが正しいと、マルモ隊長にいったほどだ。
 そのために、マルモ隊長は、宇宙艇がいつでもこの火星から離陸し、宇宙へとびだすことができる用意をして、待機《たいき》していることを命じた。
「あの怪塔の中から、何者が出てくるか、それが問題の別れ目です」
 とカンノ博士はいう。
「いままで観察して来たところによれば、あのような怪塔をあのような方法で組み立てるというのは、人類に近い生物でないと出来ないことです。そして、人類よりもずっと高級な生物にちがいありません。われわれよりも、すこしでも高級であるならわれわれは非常に不利な立場におかれるわけで、これからは怪塔の主に、あたまをおさえられていなくてはならんですからねえ。こんなところへ来て、われわれが捕虜《ほりょ》か奴隷《どれい》のようになるのはいやなことです」
「わたくしは、あの怪塔が、急に大爆発を起すのではないかと思いますの」
 とスミレ女史が語る。
「なんのための爆発かといいますと、火星の地質をしらべるためだと思います。あれを発射した者は、遠くから爆発のおこったときにどんな色の火が出るか、どのくらいの時間燃えるかなどと、いろんなことを観測しようと思って、用意しているんだと思いますわ。もちろんそれは、やがて彼らが、この火星へ移住して来るための準備作業だと思いますわ」
「なんとかして、一刻も早く、相手の正体をたしかめる方法はないものかなあ」
 マルモ隊長は、隊員をひきいている責任上、そのことを知りたいのだった。危険ならば、一刻も早く隊員をまとめてこの火星を去ることにしたい。あの怪塔を探検して、こんどの宇宙旅行のおみやげをふやしたい。
「そうだ。いいことがあります」
 とカンノ博士が、目をかがやかした。
「いいこととは、なにかね」
「隊長。あの水棲魚人と問答をしてみたいと思います。つまり、水棲魚人は、あのような怪塔をはじめて見たかどうか、それをきいてみましょう。たびたび、あんなものが落下して来たのならそれがどんな仕掛のものであるか、どんなことをするものであるか。それが知れると思います」
「それは名案だ。さっそくきいてみるがいいが、そんなことが出来るのかね」
「それはできます。私とスミレ女史《じょし》とで、この間から水棲魚人と、思っていることを話し合う研究を完成していますから、大丈夫です」
 そこでカンノ博士とスミレ女史とは、装置をかついで、水棲魚人の大ぜい集まっている沼のところへ出かけた。正吉も、このことを聞いて、おじさんのモウリ博士といっしょに、一行に加わって行った。
 その会見の光景は、ふしぎなものであったし、また記録すべきものであった。
 人類と水棲魚人の頭脳の中におこる脳波をとらえて、装置が、相手に分るような脳波に直して、相手に伝えるのであった。だから、口をきかなくても、ただ、相手に聞きたいことを、頭の中で思うだけでその質問は相手に通じた。
 相手の方でも、それをことばで返事を頭の中で思えば、それで通じるのであった。
 水棲魚人は、人類よりもずっと劣等《れっとう》な生物だったから、こみいったことを返事することはできなかった。それだから、水棲魚人から返事をとることには成功したが、人間同士の話のようには、はっきり通じなかったのは、やむを得ない。ともかくも、水棲魚人がこたえた要点を、次にしるしておこう、
「あんなものは、はじめて見た……空を、あんなものが一つか二つとぶのを見たことはあるが、あんなにたくさんとんできたのは、はじめてだ……いつまでも、全体があんなに光っているものを、今まで見たことはない……一つか二つでとんできて、その中から生物がぞろぞろ出てきたことは、今までにもある。君たちも、
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