い。皮膚の色はうす桃色と緑色とのまだらで、腹部は白かった。上下一対ずつの四つのヒレがよく働き、まだ身体のわりに小さい丸い尾ヒレはプロペラのように動いた。
 このふしぎな魚に対し、カンノ博士は「水棲魚人《すいせいぎょじん》」という名をつけた。
 正吉たちが、水棲魚人ともみあっている間に、カンノ博士とスミレ女史は、装置を草むらにすえ、脳波と音波の集録《しゅうろく》をした。


   光る円筒《えんとう》


 カンノ博士とスミレ女史は、集録してきた水棲魚人のことばと脳波の分析研究のため、艇内の実験室に引きこもった。
 複雑な装置を働かせ、めんどうな分析をつづけていった結果ついに博士たちは、予定していた以上の収穫を得た。
 ちょうど、正吉が、その部屋へはいったときは、輝かしい結果が出た直《す》ぐあとだったので、カンノ博士とスミレ女史は、疲れ切った顔に、興奮の色を浮かべながら、正吉にこの研究の成功を話した。
「水棲魚人のことばが、分ったんだ。水棲魚人の脳の働きも分った。やっぱり、水棲魚人は、普通の魚ではなく、高等生物だということが分った。おそらくこの水棲魚人こそ『火星人』の正体であろう。つまり、火星では、あの水棲魚人が一番高級な生物だということになる」
「じゃあ、あの怪魚は、地球でいうと、人類の位置を占めているわけですね」
「そうだ。そしてあの水棲魚人は、やがて水中から陸上へはいあがり、陸で暮らすようになるんだと思う。それから、空を飛ぶことも上手になるんではないかと思う。なにしろ火星は重力が小さいから、飛ぶということはわりあい楽にできるんだ。とにかく進化論の筆法《ひっぽう》でもって、これから水棲魚人が進化発達した姿を想像すると、われわれ人間に似た身体に翼《つばさ》を生やしたようなものになるのではないかと思う」
「おもしろいですね。それは、今から何年のちのことでしょうか」
「さあ、どのくらいあとのことか。早くて二十万年かな、いやもっとだ。三十万年もかかるかもしれない」
「すると、ずいぶん先のことですね。しかし火星に地球人類がどしどし来て、文化を移していくことでしょうから、水棲魚人も、早くかしこくなるでしょうね」
「まあ、そうだろうね」
「でも、地球人類は、常に火星魚人よりかしこいのだから、火星や火星人は、結局わが地球や地球人類の保護をうけて行くことになるんでしょうね」
「それもそうだと思うね。地球人類は火星を植民地とすることだろう。そしてどんどん地球文化を植えつけて、火星の文化水準をできるだけ向上させる必要があるね。火星や火星の生物たちは、地球と地球人類のおかげで、たいへんとくをするわけだ」
「火星には、地球人類よりもえらい生物がすんでいるといううわさがあったので、胸をどきどきさせて火星へ着陸したんですが、もうこのようなことが分ってみると、ぼくたちは不安からのがれたけれど、気がゆるんでしまって、すこしがっかりしましたね」
「ははは、お気の毒さまだったね。それはそれとして、私たちは、火星魚人と話が出来る機械を急いで設計し、それをつくりあげて役に立てたいと思う」
「えッ、火星魚人と話のできる機械ですって。それはすばらしいなあ。いつになったら、それは出来上りますか」
「早くても一週間はかかるだろうね」
「もっと早く出来るといいんだがなあ、ぼくも手伝わせて下さい」
「よしよし。手伝ってもらいましょう」
 正吉にはあと一週間が待どおしくて、仕方がなかった。
 ところが、その一週間がたたないうちに、思いがけないことが起った。
 というのは、それから四日目の夜のこと、大空に何とも知れず大怪音がひびきわたった。ごうごうというあらし[#「あらし」に傍点]に似てもっとすごいひびきだった。空気はひどく震動し、やがては地ひびきまで起った。
 マルモ探検隊員の多くは起き出して、戸外《こがい》を見た。その怪音の正体は、目に見えた。それは空から落ちてくる「光る円筒」であった。それは天空から無数に落ちて来て、今マルモ探検隊が宿営《しゅくえい》しているとことから二キロばかりはなれた地点に落下した。おどろいたことには、その「光る円筒」は地面の上に、規則正しい角度でずぶりずぶりと突きささり、そして見る見るうちに、竹でこしらえた垣のような形となった。
「なんだろう、あれは……」
「ふしぎな。宇宙艇でもないし、いったいなんだろう」
 そういっているうちに、あとから落ちてくる「光る円筒」は垣みたいなものの一段上に規則正しく並びだした。さらにまたその上に積みあげられたようになっていって、やがて「光る円筒」でもって、巨大な塔が出来た。すばらしい建築だ。あのすばらしい力を、だれが支配しているのであろう。とても、われわれには出来そうもないことだ。カンノ博士もスミレ女史もすっかり青ざめて、
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