ぱって、無理やりに逃げだした。キンちゃんは大力《だいりき》だったから正吉はいっしょに退却《たいきゃく》する外なかった。
池の水面からは、怪魚たちがおたがいの肩へのっていよいよのびあがりながら、逃げていく正吉とキンちゃんの方を熱心に見送っていた。
水棲魚人《すいせいぎょじん》
「たいへんだ、たいへんだ。むこうの池の中に、お化け魚がうじゃうじゃいるんだ」
キンちゃんは宇宙艇のところへかけこむと、大声をたててさわぎだした。
このさわぎに、マルモ隊長以下が、何事だろうと思って出て来た。
正吉は、さっき見て来た池の中の怪魚について、くわしく話をした。
「なるほど。それは重大発見だ」とマルモ隊長がいった。
「火星には、植物は生《は》えているが、動物はいないという学者もあるが、君たちは、火星に動物のいることを発見したんだ。お手柄だ」
「ところがですね、隊長。その魚はじつにへんてこりんの形をしているんですよ。そして魚にしては、気味《きみ》のわるいほど、じろじろとこっちを見るのです。ですから、あの怪魚は、地球の魚よりも頭脳が発達していると思うんです。
しかしぼくは、あんな魚よりも、火星人にあいたいのです。隊長さん。火星人探検には、いつお出かけになりますか」
正吉は、思っていることを、ぶちまけた。
「火星にわれわれ人間以上の高等な生物が住んでいるというのは、伝説にすぎないのではないかね。ねえ、カンノ君」
マルモ隊長は、かたわらのカンノ博士をふりかえった。
「そうです。私もそう思います。たとえ火星人というものが住んでいるにせよ、われわれ地球人類よりは下等なものであろうと思いますね」
カンノ博士は神秘《しんぴ》な火星人説を信じないと明言《めいげん》した。
「おやおや、それでは、せっかく火星人と仲よしになって握手しようと思って来たのに、がっかりしちまったなあ」
正吉は、ほんとにがっかりした。するとカンノ博士が、正吉を元気づけるようにいった。
「しかし君がさっき見た他の中の怪魚は、たいへん興味がある生物だ。おそらくそれが、火星に住んでいる一番高等な生物ではないかと思うね。先年ガーナー博士がテレビジョン装置をつんだ無人ロケットを飛ばし、火星の上空から三週間観測したが、そのときの報告に、「水中にやや高等なる動物がいるらしい。注意を要する」と書いてある。火星の生物については、ガーナー博士はこのことだけを記している。だから君たちの発見した怪魚はよほど値打《ねうち》のあるものだ。私たちも準備をしておいたものがあるから、それを持って、池のところへ行ってみよう」
「ぼくも連れていって下さい」
「もちろん、案内に立ってもらいましょう」
それからしばらくして、カンノ博士はスミレ女史と連れ立って、艇内から携帯式《けいたいしき》の無電装置のようなものを背負って出てきた。正吉は目を丸くして、それは何をする機械かとたずねた。
「この装置でもって、例の怪魚のことばや、頭脳の働きを記録してくるんだ。これをあとで分析研究して、怪魚がどんな程度の能力《のうりょく》を持った生物であるか、また、さらに分かれば、その怪魚たちは、どんなことを考えていたか、どんなことをしゃべっていたかなど調べてくるのだ」
「ははあ。それはおもしろいですね」
「ああ、そうだ」
とカンノ博士は、忘れていたことを思い出したらしく、手をうった。
「正吉君。例の怪魚のごきげんをとるために、なにか彼らの喜びそうな食べ物をもっていってやる必要がある。何がいいかね」
「ああ。怪魚にやるごちそうのことですね。それならキンちゃんにまかせるのが一番いいですよ」
キンちゃんが呼ばれた。そしてカンノ博士の話が伝えられた。キンちゃんは、
「おっと、そのことなら合点《がってん》だ。あっしにすっかりまかせておきなさい」
キンちゃんは、それから料理部屋へかけこむと、バックにいっぱい食べ物をつめて、提《さ》げて出て来た。
そこで一行は、例の池へ出かけた。
正吉とキンちゃんの組と、カンノ博士とスミレ女史との組に分れ、仕事にかかった。正吉とキンちゃんとは、おそるおそる池のそばへ近よって、怪魚《かいぎょ》のごきげんをとりむすぶのであった。キンちゃんの持って来た食べ物は、怪魚たちをよろこばせた。ことに、ソーダ、クラッカーは、怪魚たちをよろこばせた。ソーダ、クラッカーをなげるたびに、数百ぴきの怪魚たちは水面から宙にはねあがり、落ちてくるクラッカーを途中で自分の口に入れようと争った。そのときに初めて怪魚の全身を見ることができた。それは、じつに怪奇というかグロテスクというか、すさまじい格好《かっこう》と色合《いろあい》のものであった。全長は一メートルよりすこし長いくらいで太短かい。上半身は大きいが、下半身が発達していな
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