に昨日の記憶を呼び起して不審な気持を抱《いだ》き乍らも何気なく立ち去ったのであるか、一向判りませんでした。
 これでは折角《せっかく》の計画も駄目だと思ったので、翌日はもう少し薬を強くきかせることに決心いたしました。この為めに私は真黒な羅紗紙《らしゃがみ》を小さい乍らも鋭い角を持たせるように切りぬきまして、其の上に新聞紙から「呪」という字を苦心の末、やっと三つ見付けて来て、これをその三角の片隅に三つの文字が三角形をなすように貼りつけたものを作りました。これを懐にして出かけた私は大胆にも、細田氏の石の門のすぐ前にいかにも目につきやすく落しておきました。そのあとで例の路次からいまにも出て来るであろう細田氏の挙動《きょどう》を少しでも目から放さないようにしようと思いました。
 この露骨な企《くわだ》ては到頭予期以上に成功したのです。細田氏は門のところへ、ツカツカと出て来るや否や、いきなり飛び上るように身を退いて、例の三角形の切抜きのある地上を見つめたではありませんか。私は一寸|残忍性《ざんにんせい》を帯びた微笑をせずには居られませんでした。細田氏は四辺《あたり》をキョロキョロと見廻しましたが
前へ 次へ
全27ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング