いる身分で、たまに出掛ける先は病院であったり、買物であったりして、友人も案外少いことが判りました。
大体そんなことが判ると私はいよいよこの犠牲者に対して実験を行うことに取りかかりました。恰度学年試験が漸く済んで一寸一ヶ月の休暇が私に与えられていました。私の探偵したところによると、其頃細田氏は毎朝神田の白十字会病院まで注射をうけに行くということが判っていましたので、私は躊躇《ちゅうちょ》するところなく事を始めました。
最初の日は私はわざわざ下町で買い求めて来た正三角形の皮製蟇口《かわせいがまぐち》を犠牲にすることにしました。この蟇口を細田氏の歩む道路上に捨てて置いて拾わせようという考えです。私は其の日予定の時間に三角形の蟇口を懐中に忍ばせて細田氏の邸の方へ出向きました。細田氏の宏壮な構《かまえ》の前には広い空地《あきち》があって其の中を一本の奇麗な道が三十間程続いてその向うに小ぢんまりとした借家《しゃくや》が両側に立ち並んでいました。駅へ出るには、細田氏はどうしてもこの道を歩かねばなりません。
神経質な細田氏が病院へ出かける時間は大体午前九時三十分に決っていて、必ず其の時間には紋切
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