別に寒い日でもないのに青い顔に黒いマスクを懸《か》けて、私と同じように中野駅におずおずと落付かぬ様子で降り立ったのを見付けたのが、恰度《ちょうど》例のことを念じてから十日目でした。
私は細田氏が東中野駅の附近に家を持っていて呉れればよいと思いました。其の人が特に其の日だけたまたま此の駅に降りたのであったら、其の住居の方へ追いかけて見てもあまり遠いところなら私の実験を行う上に於《おい》ていろいろと不便が感ぜられるに違いありませんでした。が幸にも細田氏はあの駅を下りて私の方とは反対の側に行ったところなんですけれども駅から二丁ばかりのところにあって可成《かな》り大きな家を構えて居りました。これは段々わかった事ですが、細田氏は当主《とうしゅ》の次男であって、当主は数年前からここに居を構えていられたのでした。
私はまず此の実験を行うに当って出来るだけ細田氏の行動を観察して其の性格を理解したいと思いました。又其の職業も私のように理科や工科の人であったり、或いは画家であっても困ると思って細田氏の行く先々にも度々ついて行きましたが、都合のよい事に細田氏は無職で毎日何をするという事もなくブラブラして
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