見ると買わずには通り過ぎることが出来ない位でした。あの下の方へ細っそりとした鋭角《えいかく》はノウノウとした気分でいる子供の食慾を引きつけずには置かないのでした。鋭角と子供の食慾との間には必ずや或る真理が横《よこた》わっていると私は思っていたのです。こんな日頃の感じが今の場合のヒントを与えて呉《く》れたのかも知れません。兎《と》に角《かく》私は「三角形の恐怖」といったようなものを或る人間に抱かせてみようと決心したのです。
 そうなると此度は試験台になる人間を見付けなければなりません。それからと言うものは学校の行きかえりに「三角形の恐怖」を容易にひきおこしそうな人物を一生懸命で物色したものです。十日ほどの辛抱《しんぼう》ののち私は頃合いの犠牲者を到頭《とうとう》見付けることが出来ました。これが例の細田弓之助[#「細田弓之助」に傍点]という人物です。この細田氏の名前が弓之助であることや、其の時三十三歳であったことは、後に例の新聞記事が出た時始めて知ったような訳なのでした。三十三歳とは見えぬ位、細田氏は私の拝見した当時からふけ込んでいました。背は高くて後を向くと肩が寒そうにいかっていました。
前へ 次へ
全27ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング