と考えました。そうなるとその儘《まま》では抛《ほう》っておけないような気がして、早速これを実験して事実の上にも明かな結果を出してみたくなりました。
 私はそれから色々と「単純で、至るところに存在するもの」であって、人間が「うっかり忘れているもの」をあれやこれやと考えて見ました。考えてゆくうちに私は一つの面白い目標にカチリとつき当りました。
「三角形! そうだ」
 三角形は三つの線分で作りあげることの出来る最も簡単な空間であります。私たちのように数学を、しょっちゅう勉強しているものには三角形なんて忘れようとしたって忘れることの出来ないものですけれど、数学に縁の遠い人なら此の最も簡単な空間であるところの三角形をついうっかり忘れているかも知れないと思いました。それに三角形の現わす奇異な感情は、円とか五角形とかのあらわすところとは余程《よほど》趣きを異にしていて、如何にも我が意を得たる絶好の対象物だと思ったのでした。
 私は小さい頃から南京豆《なんきんまめ》の入っているあの三角形の袋が好きでした。駄菓子屋《だがしや》の店先などに丸い笊《ざる》の中に打ち重ねて盛りあげられた南京豆の三角形の紙袋を
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