い声が高く大きく街路へまで響いていました。私は少しは気が軽くなって、其の前をすり抜けるように通り過ぎて、駅に出ました。
 染井の須永先生の書斎に通されたのは、もう九時を廻っていたのでした。私は早速三角形恐怖の試験をはじめるイキサツから今日の惨劇を見るに至るまでの事を緊張裡《きんちょうり》に細々と告白しました。須永先生は短い口髯を指尖《ゆびさき》でもみながら静かに傾聴《けいちょう》されましたが、私の言葉が終ると、低い声で軽々《かろがろ》と笑って、
「君は此頃ちと神経衰弱のようだよ。若い身空《みそら》で、そんな小さいことをくよくよ心配していると、君の姉さんのような病気に乗ぜられるかも知れないよ。日本全電力を火山を利用する火力発電に悉く改めてしまおうという大計画を抱いていた日頃の君とも思えないじゃないか。そんなことは心配する必要はちっともないよ」
 と言って呉れました。私は常日頃尊敬する須永先生からこの軽々とした評言を聞くことが出来て喜んだのは当然です。それでも多少の悔恨を持って家に帰りました。いやまだ少し話の先があるのですよ。
 其の翌日《あくるひ》のことでした。差出し人の書いてない手紙が
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