私宛に参りました。これを母がいぶかしそうに二階の私の部屋に持ちこんで来たときは、思わずハッ[#「ハッ」に傍点]としました。多分どこからかの脅迫状でもあろうと思いましたが、たった一人生き残った母親へ心配を懸けたくないと思ったので、それはそそっかしい親友A――の筆蹟にちがいないと話して安心をさせました。
 母が階下へ降りてから、早速こわごわ封を切って見ますと、中には用箋が四五枚|綴《と》じた手紙が出て来ました。それは随分と乱暴な筆蹟で書きなぐってありましたが、文章の最後には差出人の名前がちゃんと出ているではありませんか。それに驚いたことは、この差出人は昨夜死んだ細田弓之助其の人なのです。
 私は其の手紙をもう焼いてしまったので今日貴方にお見せするわけには行きませんが、大体こんな意味のことが書き綴《つづ》られていました。

[#ここから2字下げ]
 宗夫君。
 私の生命は今日に迫っている。それは私には良く判る。そして今を除いては私が君に呼びかける時も又とあるまい。
 私は最近になって君が、昔私の捨てた恋人のたった一人の愛弟《あいてい》であるという事を知ることが出来たのだ。それを今まで知らなか
前へ 次へ
全27ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング