みの三角形のテーブルを二つ並べ合わせてあったのが転って二つに割れたように見えたのだということを知る余裕もなく、飛ぶように喫茶店を出ると一直線に家へかえりました。そして自分の机の前に身体を抛《な》げ出すと共に、此のあさましい試みが生んだ惨劇《さんげき》の中に、間接ながらとりもなおさず殺人者である自分を見出して、はげしい自責《じせき》と恐怖とに身を震わせました。
それから時計は徐《しず》かに廻りました。夕方に配達された夕刊には「カッフェで大往生」と題して「細田弓之助(33)が喫茶店『黒猫』で頓死したが、原因は病《や》み上《あが》りの身で余り激しく駈け出した為、心臓|麻痺《まひ》を起したものらしい」とあったのです。私は懊悩《おうのう》のたえ切れない苦しさを少しでも軽くしようと冀《ねが》って、昼間出掛けようと思った先輩の須永助教授のところを訪い、一切を告白して適当な処置を教えて貰おうと決心しました。
外へ出てみますと其の日の惨劇を忘れたような静かな夜《よ》の幕《とばり》はふかぶかと降りていました。例の喫茶店さえ、どこに死人《しにん》があったかというような賑《にぎや》かさで、陽気な若い男の笑
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