を極めた表現派|様式《ようしき》のものであることが一目見て判りました。其処には不思議な形に割れた三角形がその室の至るところに怪《あや》しい立体面《りったいめん》を築き上げていました。室の壁紙は白と黒と黄との畳一枚位もあろうと思われる三角形ですさまじい宇宙をつくっていました。七色とりどりの酒瓶が並んでいる帳場《ちょうば》の棚には、これも鋭角三角形でとりかこまれていました。
 それよりも一層驚かされたのは此の室の片隅に細田氏が仰向《あおむ》きに倒れ手足は蜘蛛《くも》の如く放射形に強直され、蒼白《そうはく》の顔には炯々《けいけい》たる巨大な白眼をむき出し、歯は食いしばられて唇を噛み、見るもむごたらしい最後を遂《と》げていました。驚いたのは、そればかりではありません。細田氏の屍《かばね》の側には四角なテーブルが、対角線のところから三角形をなして真二つに割れて転《ころが》っているのでした。
 私ははげしい戦慄《せんりつ》に襲われました。そして三角形恐怖事件に関する今までの悉《ことごと》くの事柄が浮び出て脳髄《のうずい》の中を馳けまわるように覚えました。私は、其の三角形に割れたテーブルが、表現派好
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