頑丈《がんじょう》な扉がしまっている。錠《じょう》がおりていると見え、押《お》せど叩けどびくとも動かない。
「困った!」
 が、そのとき彼は救われた。扉の上に、牡牛の像が、うき彫《ぼ》りにつけてあったからだ。
 彼はのびをして牡牛の舌《した》を指先でつきあげた。
 すると、奇妙なことに彫刻の中の舌がひっこんだ。と同時に、ぎーッと音がして重い扉は向こうへ開いた。
「あッ、ありがたい」
 牡牛の舌を下からつきあげると扉があく。このことは、怪囚人が教えてくれたことの一つであったのだ。
 そこを急いで越えて前方を見ると、すこし通路を行ったところに、またもや上へのびる石の階段があった。
 八木少年は、どんどんと階段をあがった。階段の上には、頑丈な扉があった。前と同じようであった。その扉の上には、やはり牡牛のうき彫がとりつけてあった。前に見た二つの牡牛の像もそうだったが、どれもすこしずつ牛の姿勢がかわっていた。
 だが、どの牛も舌をだらりと出していた。それを上へおしあげると扉が開くことは、このたびも同じことであった。
 同じようなことを五六回くりかえすうちに、さすがの八木少年も、息がきれ、頭がふら
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