だ。つまりこの中には、モリプデン――水鉛ともいったことがあるね――そのモリプデンが含有《がんゆう》されているんだ。ここまでいえばもう分ったろう。モリプデンの微量《びりょう》を鋼《はがね》にまぜると、普通の鋼よりもずっと硬いものが出来るんだ」
「ああ、モリプデン鋼のことか」
「大昔は、刀鍛冶《かたなかじ》たちが、行先を知らせず、ひとりで山の中へはいりこみ、一ヶ月も二ヶ月も家へかえらないことがあった。それは刀鍛冶が、この水鉛[#「水鉛」は底本では「水」]の鉱石を探すために山の中へ深くはいりこむのだ。そしてその場所を見つけても誰にも知らせないで、自分だけの用に使っていた。しかしその刀鍛冶が年をとって死にそうになると、ひそかに自分のあとつぎの者におしえたこともあったそうだ。とにかく、この水鉛鉛鉱が、この部屋には、あっちにもこっちにもおいてあるんだ。この謎を君たちはどう解くかね」
 問う少年の瞳《ひとみ》も、聞かれる少年たちの瞳も、共に輝いて、水鉛鉛鉱の上に集まる。
「ふん、分った。この屋敷を建てた混血児《こんけつじ》のヤリウスは、水鉛鉛鉱を売って儲《もう》けたんだろう。貿易もしたのだろう」

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