んだん奥深く掘れ、八木君のからだが横にはいれるほどになった。
 八木君はそれをよろこんだ。
 が、すぐ次に絶望が待っていた。
 というのは、土の壁の奥が、はっしと音がして、そこにあらわれたのは巨大なる岩であった。その岩を掘ることはできない。最後の希望をかけて、彼はガラス天井の端を上へおしあげてみた。だが重いガラス天井は、びくともしなかった。
「ああ、もうだめか」
 八木君ががっかりして頭をさげると、頭は濁水《だくすい》の中にざぶりとつかり、彼はあわてて頭をあげた。するとごていねいに、頭をガラス天井にいやというほどぶつけてしまった。
 水は、あと十センチばかりで天井につくんだ。彼の生命《せいめい》もついにきわまった。
 それまではりつめていた気持が、絶望と共にいっぺんにゆるんだ。八木君は意識をうしない、からだはぐにゃりとなって水の中に沈んだ。
 もう、おしまいだ。

   覆面の囚人《しゅうじん》

 だが、もし他の人がいて、この場の光景をもうすこし眺めていたとしたら、その人は、意外なる出来事にぶつかって、大きなおどろきにうたれたことであろう。
 八木君は、もはや死体のようになってガラス
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