彼は、こんどは失敗しないで、段の上へよじのぼることができた。そしてガラス天井に、はじめて手をつけた。それはひやりとして、思ったよりは、ずっと厚かった。
 失望するのは、死のちょっと手前のことにして、八木君はさっそくジャック・ナイフでガラス天井をつきあげた。
 きいーッと、いやな音がして、ナイフはガラスの表面をつるりとすべった。ガラスの方がナイフより硬いのだ。
 ナイフの柄《え》の方をかえし、それを金づちがわりにして、下から、がんがんとたたいてみた。ガラス天井は、そのままだった。ナイフの柄についていた角材がかけた。これもだめだ。
「まだもう一つ、やってみることがある。ガラス天井の端《はし》まで掘ることだ。そこまで掘れば、上にあがる穴ができるかもしれない」
 八木君は、最後の望みをこのことにかけていた。
 ガラス天井が土壁にささえられている。そこを横に掘っていくのだ。彼は、刻々にましてくる水面をにらみながら、ジャック・ナイフの刃《やいば》を水平にして、ガラス天井の下を横に深くえぐっていった。ナイフの刃とガラスがいきおいよくぶつかって、赤い火花が見えることもあった。そしてガラス天井の下は、だ
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