を掘りだし、足場を作りはじめた。つまり土壁に、段をつけるのである。そしてその段をのぼって、ガラス天井へ近づこうという考えであった。これはうまい考えであるように見えて、じつはなかなか困難なことであった。せっかく一段を掘り、次にその上の第二段目を掘っていると、水かさがましてきて、はじめの第一段をひたしてしまう。
これは残念と、八木君はそれへ足をかけようとしたが、水がはねて段はずるずるにぬれ、八木君がそれへ上ろうとして力をいれると、とたんに足がすべって、どぶんとその身は濁水《だくすい》の中に落ちてしまった。そして彼は、いやというほど泥水《どろみず》をのまされた。
時間は迫る。
「だんだん苦しくなるぞ、それよりか、泥水の中にすっぽりつかって、早く溺死してしまった方がどんなに楽かしれないよ。君、早く死んだがいいよ」
死神の声であろう。そのことばは、早く楽になるから溺死しなさいと誘惑《ゆうわく》している。
「いやだ、死ぬまでに、まだまだやってみることがあるんだ。お気の毒さまねえ、死神君」
八木君は元気をふるい起して、もう一度あらためて、土の壁に段をきりこんでいった。
やがてそれはできた、
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