、もう一度、一番奥の重い鉄扉《てっぴ》のところへいってみた。
いろいろやってみたが、扉はびくともしない。たたけば、こっちの手が痛くなるだけであった。八木君は、あきらめた。
ただこのとき、彼は一つの発見をした。扉の上に、うき彫《ぼ》りになって、牡牛《おうし》がねそべり、そしてその牡牛はこっちを向いて、長い舌を出しているのが、とりついていることだった。八木君は、むりをして、扉の一角に足をかけて、扉の上までのぼってみたのである。
この牡牛のうき彫りが、単なる装飾《そうしょく》であるのか、それとも何か外に意味があるのか、そのとき八木君には答を出している余裕《よゆう》がなかった。
次の手は、ガラス天井《てんじょう》を破ることであった。ガラスはそうとう厚いようであるから、ジャック・ナイフしか持っていない彼に、はたして破れるかどうか、見込《みこ》みはうすかった。
このとき水かさはまして、八木君の乳のあたりから下をひたしていた。いやな思いである。もう五十センチも水かさが増せば、いやでも土左衛門だ。働くのは今のうちだ。
八木君は、ガラス天井の下で、かたわらの土壁へジャック・ナイフをたてて、土
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