ここまで来やしないよ」
「そうだ、そうだ」
 みんな、いせいのいいことをいう。しかしみんなの声は、気のせいか、すこしふるえをおびていた。
 五井が合図《あいず》に、綱をひいて、それからむこうを向いて、せまい階段をのぼりだした。なにが、この時計台の上に待っているだろうか。
 四少年の影法師が大きく壁にゆらぐ、みんなの足音が、気味わるく反響する。
 ふいに、頭の上にばたばたと音がして、こっちへとびついて来たものがある。
「あッ」
「出たぞ」
 大きな鷲《わし》のような影が、壁にうつった。
「コウモリだ。心配するな」
 一番下にいる四本が、声をはげましていった。
「なんだ、コウモリか」
 五井が持っていた竹の杖《つえ》をぴゅうぴゅうふりまわす。すると、さわぎはさらに大きくなった。コウモリは一ぴきではないらしい、四五ひきはとんでいるようだ。
「コウモリがいるくらいなら、あとは大したものがいないだろう」
 四本が、そういった。
「ほんと、きっと、外に何にもいないんだね」
 四本の前の二宮が、ふりしぼったような声でたずねた。
「まあ、多分そうだろう。しかし五井君の方を注意していた方がいいよ」
「あ
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