が流れ、商人らしい服装の人が何人となく時計屋敷を入ったり出たりした。
 庄屋の家柄の左東左平は、前から時計屋敷のことを心の中にきざみつけていた。ヤリウスには恨みをいだいていたこともあったが、時計屋敷ができあがったのちは、あの屋敷にたいへん心がひかれ、自分もなんとかしてあんな様式の家をつくりたいものだと思い、いろいろ考えていたところだったから、その屋敷が売物に出たとの話を耳にすると、さっそくかけつけて、せり売の場にはいっていい値をつけた。
 そして結局、左平がこの屋敷を買取ることにきまった。金額はいろいろとうわさされたが、とにかくヤリウスの家扶の門田虎三郎《もんだとらさぶろう》は、左平から金を受取ると、屋敷を明けわたして出ていった。
 大よろこびの左平だった。
 さっそく家族をつれて、この屋敷へひっこした。妻君のお峰《みね》と一人娘の千草《ちぐさ》と、あとは雇人が十人近くいた。
 左平のとくい顔が見られたのは、それから半年あまりの間だった。そのあとは、左平の顔には何だかやつれの色が見え、そして何事かについてあせっているようだ。
 それを村人がしんぱいして、それとなくわけをたずねたが、左平
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