んだのであったが、ヤリウスは首を左右にふって、左内村の人間をただ一人もやといいれなかった。村人は、がっかりし、そしてヤリウスをうらみ、時計台をにらみつけては新築屋敷のことをのろった。
 建築は手間どって、春から始めた工事がすっかり出来上ったのは、夏も過ぎ、秋もたけ、木枯《こがらし》の吹きまくったあとに、白いものがちらちらと空から落ちて来る冬の十二月はじめだった。さかんな新築祝いの宴が、時計屋敷で三日三晩にわたって行われたのち、百五十人の建築師たちは、村人にあいさつもせず、風のようにこの土地を去った。
 それと入れ替えに、その翌日たくさんの荷物を積んだ馬が屋敷へはいっていった。そして、それから時計屋敷の窓々からは、あかるいともし火がかがやき、ヤリウスの豪華な生活がはじまったのである。
 ヤリウスは、そこに四五年住んでいた。
 そして、とつぜん彼の姿は村の人の目から消えた。窓のともし火も、急に数がへった。
 人のうわさでは、ヤリウスが日本を去ったともいい、またヤリウスが、とつぜん死んだのだという者もあった。
 どっちかしらないが、それから間もなく、この時計屋敷の買手を探しているそうなとの話
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