しれないよ。どうせ下りるなら、くらがり井戸をそっと下りて行く方がいいと思う」
 八木はそういった。
「よし、君の好きなようにしたがいい、そのかわり、もし危険を感じたら、この綱をゆすぶるんだよ。それが信号さ、SOSの危険信号さ。するとぼくたち四人は力をあわせて、すぐこの綱を引張《ひっぱ》りあげるからね、君はしっかり綱につかまっているんだよ」
「うん、分ったよ、それじゃ頼むよ、では、ぼくは井戸の中へはいってみるよ」
 八木少年は、もうかくごをきめて、綱を握り、身体をまかせた。しずかに、そろそろと綱を伝わって下りていく。
 ひえびえと、しめった井戸の冷たさが、八木のくびのあたりを襲《おそ》った。ますます暗い、五メートル、十メートルと下りていくにつれて心細さがわく。
 しかしもう決心したことだから、途中でもって、「この綱をひき上げてくれ」などと弱音《よわね》があげられたものではない。八木少年は、自分の心をはげましながら、なおもするすると、から井戸を下りていった。
「あッ」
 いきなりあたりがうす明るくなった。それとほとんど同時に、八木の足は下についた。
 さあ、ここはどんなところかと、八木少年
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