とを発見するだろうか。その油断に乗じて、どかーんと一たび爆発すれば、相当な損害を与えることが出来る。だから、時限爆弾は長期のものほど大いによろしいのである」
「なるほど。で、もう一つ伺《うかが》いたいのはその、長期性時限爆弾の正味《しょうみ》ですが、その実体はどれくらいの大きさのものでしょうか。定《さだ》めし、ずいぶん小さいのでしょうなあ」
「時限爆弾の大きさかね。それは大きいのも小さいのもいろいろ有るがね。今まで造ったうちで極《ご》く小さいものというと、婦人の持っているコンパクトぐらいじゃね。わしが今|覚《おぼ》えている第88888号という時限爆弾は、金色燦然《こんじきさんぜん》たるコンパクトそのものである。パウダーの下に、一切の仕掛けと爆薬とが入れてある」
「それは危険ですね。金色のコンパクトで、第88888号でしたね。さあ、なんとかして、その運の悪い貴婦人に警告してやらねばなるまい」
「なんだって。こら、貴様は、劉洋行かと思っていたら、いつの間にか相手が変っていたんだな。け、怪《け》しからん。とうとうわしから時限爆弾のことを聞き出し居った。ここな、卑劣漢め!」
「いや、お待ち遠さまでございました。只今倉庫中を調べましたところ……」
「なにをなにを、その手は喰わないぞ。今ごろになって、声を元に戻しても駄目だ。け、怪しからん」
「え、博士。もう燻製は御入用《ごにゅうよう》ではないのですか」
「ありゃありゃ。はて、これはたしかに劉洋行の店員の声じゃ。待ってくれ。本物の店員君なら、電話を切らないでくれ。して、燻製があったか」
「有りました。とって置きの、すばらしい燻製です。外《ほか》ならぬ博士の御用命ですから、主人が特に倉庫を開きましてございます。それがあなた、珍味中の珍味、蟒《うわばみ》の燻製なんでございます」
「ええっ、蟒の燻製?」
「はい、たしか蟒です。胴のまわりが、一等太いところで二|米《メートル》半、全長は十一|米《メートル》……」
「それは駄目だ。いくらわしでも、そんな長い奴を、とても一呑《ひとの》みには出来んぞ」
「いや、一呑みになさるには及びません。厚さが十|糎《センチ》ぐらいの輪切《わぎり》になって居りますので、お皿にのせて、ナイフとフォークで召しあがれます」
「おお、そうか。そいつは素敵だ。じゃあ、うまそうなところを一|片《きれ》、大至急届けてくれ」
博士は、電話をかけながら、ごくりと生唾《なまつば》をのみこんだ。
5
それから一時間ばかりして、待望の蟒《うわばみ》の燻製《くんせい》が、金博士の地下邸《ちかてい》へ届けられた。
秘書が、そのことを博士に知らせにやってきた。
「うふふん。お前の知らせを待つまでもなく燻製をもってきたことは、ちゃんと知っておるわい。それよりも、早く卓子《テーブル》のうえに皿やフォークを出して、すぐ喰べられるようにしてくれ。ぐずぐずしていると、おれは気が変になりそうじゃからのう」
博士が燻製にあこがれること、実に、旱天《かんてん》が慈雨《じう》を待つの想いであった。秘書は、びっくりして、引込《ひっこ》んだ。
「とうとうありついたぞ、燻製に! 燻製の蟒――蟒は、ちょっと膚《はだ》が合わないような気もするが、しかし喰ってみれば、案外うまいものかもしれない。そうだ。時局柄《じきょくがら》、贅沢《ぜいたく》はいわないことじゃ。それにしても、あの秘書め、何をぐずぐずしているのじゃろう」
カーテンの向うから、秘書の咳《せ》き払《ばら》いが聞えた。
「おほん、食事の御用意が整《ととの》いましてございます」
「おお、待ちかねた。今、そこへ行くぞ」
食事の用意が出来たと聞いた途端《とたん》に、博士はまるで条件反射の実験台の犬のように、どうと口中に湧《わ》き出《い》でた唾液《だえき》を持てあましながら、半《なか》ば夢中になって隣室へ駆け込んだ。
「いやあ、これは偉大だなあ!」
卓子《テーブル》に並べられた大皿を見て、博士はまず驚嘆《きょうたん》の声を放った。そうでもあろう。胴のまわり一|米《メートル》三、厚さ十|糎《センチ》というでかい蟒の胴を輪切りにした燻製が、常例《じょうれい》ビフテキに使っていた特大皿から、はみ出しそうになっているのである。
博士は、椅子にかけるのも待ち遠しく、ナイフとフォークとを取り上げて皿の中をのぞきこみながら、
「うふふん。どうもこの燻製の肉の色がすこし気に入らぬわい。こんなに黝《くす》んでいるやつは、肉が硬くていかん。こいつはきっと、煙っぽくて、喰っている間に、咽喉加答児《いんこうカタル》を起こすかもしれんぞ」
こと燻製ものについては、博士は仲々くわしいのであった。
ちゃりんちゃりんナイフを磨《と》ぐ音がした。博士はナイフをひらめかして
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