瞭《めいりょう》となるであろう。


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六十×年八月八日 最小限生活に追いこまれあり、食慾ことの外《ほか》興奮して、治《おさ》めるのに困難を感ず、非常時ゆえ、仕方なけれど……。
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 前夜から、われわれは、リュックサックを肩に負い、必死で、縦井戸《たていど》を登攀《とうはん》しつつあるのであるが、老人である私には、腕の力も腰の力も弱くて、一向はかがいかない。一時間もかかって、やっと五メートル登るのがせきのやまである。
 しかも、気をゆるめていようものなら、下から上って来た乱暴な市民のため、われは邪魔扱《じゃまあつか》いにされて、まるで壁にへばりついているやもりを叩きおとすように、われ等の身体は奈落《ならく》へ投げおとされるのである。
 奈落へ墜落《ついらく》すれば、どっち道、死あるのみである。岩かどに頭をぶっつけるか、そうでなくて死にもせず、元の極楽地下街まで墜《お》ちついたとすれば、そこには白人帝国軍の地底戦車隊《ちていせんしゃたい》が待っていて、たちまち身はお煎餅《せんべい》の如く伸《の》されてしまう
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