学界の事情によく通じているとみえて、幹部の出席する会合ばかりを覘《ねら》っています。先生も、どうか会合へは今後一切御出席なさらぬ様にねがいます」
「君は、犯人の心当りでもあるのかね」
「無いわけでもありませんが、申しあげません」
「僕には言えないというのかね」
「言うのを控えた方がよいでしょう。それにまだ明瞭《めいりょう》な証拠を握ったわけでもありませんから……」
「君は椋島《むくじま》技師のことを指して言っているのじゃないだろうな」博士は、はじめて立ち止ると、帽子や外套を脱ぎながら言葉をつぎ足した。
「……」松ヶ谷学士は、椋島技師の白皙《はくせき》長身《ちょうしん》で、いつも美しいセンターから分けた頭髪を目の前に浮べた。
「椋島君なら、僕が保証をするよ。あれはすこし妙な男ではあるが、そんな勇敢な仕事の出来るほどの人物じゃない。うちの娘の真弓《まゆみ》のお守をしている位が精一杯じゃて」
松ヶ谷学士[#「学士」は底本では「博士」、173−上段−23]は、複雑な感情をジッと堪《こら》えていた。
2
ちょうど其の時間に、椋島技師は陸軍大臣の官邸で、剣山《つるぎやま》陸軍大臣と向い
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