ましたかい?」
「昨夜、丸の内会館で、薬物学会の幹部連中が、やられちまいました。松瀬博士以下土浦、園田、木下、小玉《こだま》博士、それに若い学士達が四五人、みな今暁《こんぎょう》息をひきとったそうです」
「うん、松瀬君もやられたか」と博士はちょっと押黙《おしだま》って何事かを考えているようであったが、相変らず室内散歩の歩調をゆるめはしなかった。「気の毒なことじゃのう」博士の声は水のように淡々《たんたん》として落付いていた。
「先生、昨夜の連中は毒|瓦斯《ガス》にやられたそうです。症状からみると一酸化炭素の中毒らしいですが、どうも可哀想《かわいそう》なことをしました」と松ヶ谷学士[#「学士」は底本では「博士」、172−下段−2]は下を俯《む》いた。
「薬学者連中が毒瓦斯にやられるなんて、ちょっと妙な話じゃね」博士は、毒舌《どくぜつ》を弄《ろう》するというのでもなく、これだけのことをスラスラと言ってのけた。
「ですが先生、これで四度目でございますよ。半年とたたない間に、第一に電気学会の幹事会に爆弾を抛《ほう》りこまれて幹部一同が惨死《ざんし》をする。次はS大学の工科教授室の連中が、悪性《あ
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