すばらしい研究問題をあたえて、日本|否《いな》世界の科学界を面目一新させようとしている。博士自身も、この研究所に自《みずか》ら一分科を担任して、終日《しゅうじつ》試験管やレトルトの側《そば》をはなれない。その研究題目は「化学による生物の人造法」というのである。外の学者が五十年かかるところを、博士は十年で成績をあげている。
「開け、ごま[#「ごま」に傍点]の実」と廊下を飛ぶようにやって来て、博士の扉《ドア》の前に立った白い実験衣の小柄の青年学者が大きな声で叫んだ。
「どなたですか?」と内側から博士の扉の番をするロボットがやさしい婦人の声を出して訊《き》いた。
「松《まつ》ヶ谷《や》研究員です」
 すると扉が開いた。若い松ヶ谷学士[#「学士」は底本では「博士」、172−上段−8]は、全身に興奮を乗せて躍《おど》りこむように所長室にすべりこんだ。
「先生、今朝の新聞をごらんになりましたか」
「これから見るところじゃ」と鬼村所長は答えた。博士は先刻《さっき》のペデストリアンと同じ姿勢をして静かに室内を歩き廻っているのであった。帽子も外套《がいとう》もとらずに、
「何か異《かわ》ったことでもあり
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