った。其内《そのうち》に識《し》るともなく父鬼村博士の陰謀に気付き、夜に昼を継《つ》いで歎《なげ》きかなしんだため、到頭《とうとう》ひどく身体を壊してしまった。だが、椋島技師の死刑が近いと聞いたので、彼女は片恋《かたこい》ながら、なにをおいても椋島を救いたく思い、それには、父博士によって、椋島技師の行状《ぎょうじょう》を有利に証言して貰うことができれば、必ず彼女の思いはとどくものと信じ、こうして生と死の境を彷徨《ほうこう》する身体をここまで搬《はこ》んできたのであった。
 彼女の傍に立った鬼村博士は、急ににがりきった顔付になって、真弓子の痛々しい姿に、一言の憐憫《れんびん》の言葉もかけはしなかった。彼女は、いくたびかはげしく咳《せ》きいりながら、虫のような声でくりかえしくりかえし歎願し、椋島の助命を頼んだのであった。しかし父博士は一言も口を開かなかった。が真弓子が絶望のあまり、泣き声も絶《た》えてその場に気を失ったとき博士は始めて口をきいた。
「松ヶ谷君、悪魔のしのび笑いを耳にしないかね!」
 二発の銃丸が、消音|短銃《ピストル》のこととて、音もなく博士の手から松ヶ谷学士と真弓子の脇腹
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