な精製法を経《へ》ると、三間四方の室なら五c.c.のフォルデリヒト瓦斯で、充分殺人の目的を達するようであった。博士は最近、この毒瓦斯の精製法に成功したのであった。
 博士は其の日の午後、近くにせまる陰謀の計画をチェックしていた。すると、博士の愛するロボットは、珍客の案内を報じたのであった。博士はその密室を出て、広間の扉を開いた。そこには、この一ヶ月というものの間、全く生死不明を伝えられていた松ヶ谷学士が、おどおどした眼付で立っていた。
「松ヶ谷君か。君、どうしていたんだ」と博士は機嫌がよかった。
「ハイ、それは追々《おいおい》御話し申上げる心算《つもり》でございます」
 と松ヶ谷学士は言って、口をつぐんだ儘《まま》、やや躊躇《ちゅうちょ》している風だったが、強いて元気をふるいおこす様子で、
「先生、実は、……申上《もうしあ》げ憎《にく》いので御座いますが、わたくし、お嬢様のお使いに本日参上いたしましたのですが……」
「ほう、真弓の使いというのか」博士は冷く言い放った。「遠慮《えんりょ》なくここへ連れてくればよいではないか」
「それが、どうしても先生に、所外まで御出《おい》で願いたいとい
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