《つるぎやま》陸軍大臣が、かつて椋島技師にスパイを命じたときに語ってきかせた国際殺人団の団長であったのだ。その下に集る団員は、博士の命令で、あの事件以来ピタリと鳴りを鎮《しず》め、その代り、新《あらた》に恐ろしき第二期計画に着々として準備を急いでいた。博士は、多数の権威を喪《うしな》った我国の科学界の王座に直って、あらゆる機関を手足の如くに利用していた。殊《こと》に博士が所長を勤める研究所にあっては、所外不出《しょがいふしゅつ》ではあるが極秘裡《ごくひり》に、数々の恐ろしい実験がくりかえされていた。たとえば、その一つの部屋を窺《うかが》ってみるならば、大きな金網《かなあみ》の中に百匹ずつ位のモルモットを入れ、これを実験室の中に置き、技師たちは皆外へ出た上で、室外から弁《べん》を開いて室内へ、さまざまの毒|瓦斯《ガス》を送り、モルモットの苦悩の有様や、死に行くスピードなどを、部厚な硝子窓からのぞきこんでは観測するのであった。こうして色々な毒瓦斯が研究されはしたが、結局、前に椋島技師が発明して残して行ったフォルデリヒト瓦斯《ガス》に及ぶ強力な毒瓦斯はなかった。これは非常に濃厚なもので、適当
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