座は、それこそ、我国に於ける化学界の至宝《しほう》と認められる学者たちばかりであった。この会合で、充分効果のある具体的方法を考え出さない限り、当分はいかなるこの種の会合も危険で出来ないのであった。一座はそれについて重大なる責任を思いながらも、昨日の惨劇におびえ切って兎角《とかく》、議案にまとまりがつかない様子であった。一座の中には、鬼村博士の命拾いまでを神経に病んで若しこの席から博士が立つようであれば、直《す》ぐ様《さま》その後を追って室外に出なければ危険であると考え、博士の行動にばかり気をとられている人もあった。
「椋島君は、見えないようですね」と訊《き》いた人がある。
「椋島君は、来ると言っていましたが、どうしたものかまだ見えません。いや、いずれその内やって来ますよ」
と鬼村博士が答えた。
「椋島君は、鬼村さんの御令嬢が昨日家出されたので、それで忙しいらしいですよ」と隣りの化学者が囁《ささや》いた。
「だが、今日の問題は、国家の興廃《こうはい》に関する重大事項じゃありませんか」
「それに違いありませんが、この道ばかりは何とやら云いますからね」
その噂にのぼった椋島技師は、鬼村博
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