が装置したのであるか、また入口の扉は誰が鍵をかけたのであるかについては、各紙は一行の報道もしていなかった。現場から行方不明となった松ヶ谷学士には、すくなからぬ嫌疑《けんぎ》がかけられていたが、その生死のほどについては知る人が無かったのである。
5
惨劇《さんげき》は、満都の恐怖をひきおこすと共に、当局に対する囂々《ごうごう》たる非難が捲き起った。「科学者を保護せよ、犯人を即刻逮捕せよ」と天下の与論《よろん》は嵐の如くにはげしかった。
惨劇のあった翌日、秘密裡《ひみつり》に、日本化学会の幹部二十三名が、学士会館の一室で会合した。会場は言うに及ばず、会館内の隅々まで、電球や電熱器をはじめ、館内に在るありとあらゆるものが厳重な検査をせられたのち、内外に私服警官隊の網をつくり、それこそ一匹の蟻のぬけ出る道もない迄に、警戒せられたのであった。その会合は、午後七時となって、やっと開催せられた。勿論《もちろん》この会合には、昨夜の惨劇から幸運にものがれた鬼村博士が座長席にすわって、「毒|瓦斯《ガス》犯人についての意見」を交換し合い、これに対抗する具体的手段を考案せられんことを希望した。一
前へ
次へ
全37ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング