た。室外では、今、松ヶ谷学士が扉に身体をうちつけている。刑事や警官が扉の前に走《は》せ集って来た。扉はドーンと開く。松ヶ谷学士は先頭になって飛び込んだ。
「灯《あかり》を、灯を」
と叫ぶ警官がある。今入ったばかりの松ヶ谷学士がよろよろと入口へよろめき出て来ると、パタリと其儘《そのまま》斃《たお》れた。惨劇《さんげき》の室の前に集った人の中から、マスクをかけた長身の男が飛び出して、
「毒瓦斯だ! 入ってはいけない」と叫んだ。彼は腰をかがめると、入口に斃《たお》れている松ヶ谷学士を肩に担《かつ》ぐと、ドンドン階段の方へ駈け出して行った。そのとき、便所から帰って来た鬼村博士が、この騒ぎに驚いて、博士に似合わぬ狼狽《ろうばい》ぶりを見せて、室内に飛込もうとしたが、それは警官が二人がかりで抱きついて、やっと止めることができたのであった。
鬼村博士を除く十六名の学会長は、悉《ことごと》く枕を並べて無惨なる最後をとげてしまった。鬼村博士が、偶然にも唯一人助かったことは、不幸中の幸《さいわい》であると、各新聞紙は悲壮な空元気《からげんき》の社説を掲《かか》げた。だが、当夜の不思議な毒瓦斯電球を、誰
前へ
次へ
全37ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング