ウという微《かす》かな音をたてて消えてしまった。それだけのことであった。別に爆発物の破裂しそうな煙硝《えんしょう》の匂いもしなかったし、イペリット瓦斯《ガス》の悪臭も感じられなかった。座中の或る者が、
「唯今《ただいま》、私が給仕を呼びますから」と言ったので一同は子供のように立騒ぎはしなかったが、いずれも内心の不安をかくすことが出来なかった。声をかけた人は、そろりそろりと扉《ドア》の方に近づいて行った。やがて扉に手が触れたので、両手を上下左右に伸ばしながら把手《ハンドル》の在所《ざいしょ》を探しもとめた。把手はあった。彼氏はその把手を握ってギュッと廻すと、外へ押したが、どうしたわけか扉は開かない。そんなわけはないと思って更に一生懸命押してみたが、今度はなんだか腕が痺《しび》れてくるようで力が入らなかった。そのうちに頭が割れるように痛み出し、胸がひきしぼられるように苦しくなってきた。
「やややられたッ。扉が、あああかない」と叫びながら、扉を滅多うちに叩きつけた。暗黒の室内のあちらこちらでは、獣《けもの》のような絶望的な叫び声が起り、うんうんと呻吟《しんぎん》する声がだんだん高くなって行っ
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