どうぞ御安心をねがいます」と博士はニヤニヤと両頬に笑《え》みをうかべながら諧謔《かいぎゃく》を弄《ろう》して着座したので、最初のうちは顔色をかえた会員も、哄笑《こうしょう》に恐怖をふきとばし、一座は和《なごや》かな空気にかえった。一旦席についた博士は衣嚢《かくし》から金時計を出してみたあとで一座の顔をみわたしたが、「どうぞ御意見を……」と言った。そして急に立ちあがって「ちょっと便所へ……」と隣席の川山博士に耳うちをすると、席を立った。そして入口の扉《ドア》をあけて室外に出ると、
「先生、なにも変ったことは御座いません」と、今夜の警戒の第一線に自ら進んで立っていた松ヶ谷学士が、いきなり博士に顔を合わせて、こう囁《ささや》いた。
「わしは便所へ行って来る、よろしく頼むぞ」博士は、例の調子で呻《うめ》くように言うと、そろりそろりと便所のある方へと足どりを搬《はこ》んで行った。会合室内では蓑浦中将が立って、
「唯今、協会長の御説明のあった最近の奇怪なる事件につきまして、私の……」と、そこまで話をすすめて来たときに、どうしたものか、グローブの中の電燈が、急に二倍もの明さに輝いたかとみる間に、スー
前へ 次へ
全37ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング