人は鬼村博士の一人娘の真弓子《まゆみこ》にちがいなかった。無論彼女は、いち早く、椋島の姿をみとめたのである。だがその異様《いよう》ないでたちの彼を何と思って眺めたであろうか、スカートの短いところでカムフラージュされるとしても、生憎《あいにく》彼にしなだれかかっていたコケットのおキミを見落《みおと》す筈《はず》はなかった。これに対して、椋島は遂《つい》に一言も声を出さなかったし、むしろ顔をそむけたほどであった。しかし、何《ど》うやら気になるものと見えて、真弓子の行く後を振りかえった。彼は真弓子がこちらを振りむいたのを見て慌《あわ》てて頭を立てなおした。
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其の夜の六時、電気協会ビルディングの三階第十号室には我国の科学方面に於けるさまざまな学会の会長連が、円卓《えんたく》を囲んでずらりと並んでいた。その人数は十七名もあろうか。電気学会長である帝大工学部長の川山博士の白頭《はくとう》や、珍らしく背広を着用に及んでいる白皙《はくせき》長身《ちょうしん》の海軍技術本部長の蓑浦《みのうら》中将や、テレヴィジョンで有名なW大学の工学部主任教授の土佐博士の丸い童顔や、それからそれへと、我国
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