るかのように、おキミがおこしに上って来た。
 椋島とおキミとコックの留吉との三人が外出の仕度をして店の方に出て来たのは、それから一時間ほど経ってのちのことである。
「まア、仮装《かそう》舞踊会《ぶようかい》へでもいらっしゃるの」
「ムーさん、勇敢な恰好ねえ」
 などと、ウェイトレス連が囃《はや》したてた。たしかにそれは不思議な組合わせであった。留吉はシャンとした背広に、黒い喋《ちょう》ネクタイをしめて紳士になりすましていたし、おキミはどこで借りて来たのか、三越の食堂ガールがつけているような裾《すそ》のみじかいセルの洋服をきて年齢が三つ四つも若くなっていたし、椋島は椋島で、留吉の衣裳を借りたらしく、コールテンのズボンに、スェーターを頭から被ったという失業者姿であった。
 三人は、まぶしいペイブメントのうえへ飛び出した。三人が列をそろえて一列横隊で歩き出したところへ、横丁《よこちょう》から不意にとび出して来た若い婦人がドンと留吉にぶつかりそうになった。
「ごめん、あそばせ」と婦人は豊かな白い頬をサッと桃色に染めながら言って、チラリと一行を見たが、
「呀《あ》ッ」と小さい叫声をたてた。この婦
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