科学界の最高権威を残りなく数えることができるのであった。勿論《もちろん》、その座長席には鬼村博士のやや薄くなった大きな頭がみえていた。
 会合は、科学協会としての例月の打合わせ会であったのであるが、議事が一ととおり済《す》んでしまうと、鬼村博士が、やおら、ずんぐりと太い身体をおこして立った。
「みなさん、例月議事は、これで終了いたしましたが、次に是非みなさんの御智恵を拝借したいことがあります。御承知でもありましょうが、近来どうしたものか、われわれ科学者仲間におきまして、不測《ふそく》の災害に斃《たお》れるものが少くない、いや、寧《むし》ろ甚だ多いと申す方がよろしいようであります。これにつきまして、この頃では、さまざまの臆説《おくせつ》が唱えられて居るようでありまして、中には、これは科学者に共通な悪運が廻って来たものだと申し、或る者は殺人魔の跳梁《ちょうりょう》であると申し、また或る者は偶然災害が続くものであって決して原因のあるものではないと反駁《はんばく》をいたしておるようなわけであります。私個人の考えといたしましては、どうも気が変になった犯人のなせるわざであると考えて居るのであります
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