ョトキョトしている具合や、口吻がなんとなく尖って見え、唇の切れ目の上には鼠のような粗い髯が生えているところが鼠くさい!」
と書いたが、彼はなぜこんなことを考えついたのだろうと不審をうった。
さっき鼠が天井裏で暴れはじめたのを、時にとっての福の神として、鼠の話などを原稿に書きだした件はよく分る。しかしその鼠の話を、そんな風に主人公の顔が鼠に似ているという話にまで持っていったについては、何かワケがなくてはならぬ。凡《およ》そワケのない結果はないのである。そのモチーフは如何なる筋道を通って発生したのであろう。
ひょっとすると、これは梅野十伍自身は自覚しないのに彼の顔が鼠に似ていて、それでその潜在意識が彼にこんな筋《プロット》を作らせたのではなかろうか。そうなると彼は急に気がかりになってきた。その疑惑をハッキリさせなければ気持が悪かった。
彼は時計がもう午前三時になっているのに気がつかないで側《かたわ》らの棚から手文庫を下ろした。その中には円い大きな凹面鏡《おうめんきょう》が、むきだしのまま入っているのである。彼はそれに顔を写してみる気で、手文庫の蓋に手をかけたが――ちょっと待て!
前へ
次へ
全41ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング