軍用鼠
海野十三

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)梅野十伍《うめのじゅうご》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)意気|甚《はなは》だ

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)アダム[#「アダム」に傍線]ガ
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 探偵小説家の梅野十伍《うめのじゅうご》は、机の上に原稿用紙を展《の》べて、意気|甚《はなは》だ銷沈《しょうちん》していた。
 棚の時計を見ると、指針は二時十五分を指していた。それは午後の二時ではなくて、午前の二時であった。カーテンをかかげて外を見ると、ストーブの温か味で汗をかいた硝子《ガラス》戸を透して、まるで深海の底のように黒目《あやめ》も弁《わ》かぬ真暗闇が彼を閉じこめていることが分った。
 もう数時間すれば夜が明けるであろう。すると窓の外も明るくなって、電車がチンチン動きだすことであろう。するとその電車から、一人の詰襟《つめえり》姿の実直な少年が下りてきて、歩調を整えて門のなかへ入ってくるだろう。そして玄関脇の押し釦《ボタン》を少年の指先が押すと、奥の間のベルが喧《かまびす》しくジジーンと鳴るであ
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