段を、腹匍《はらば》いになってソロソロと登っていった。
 階段を登りきると、ボンヤリと黄色い灯《ひ》の点《とも》った大広間が一望のうちに見わたされた。魔法使いの妖婆は、一隅の寝台の上にクウクウとあらたかな鼾《いびき》をかいて睡っている。機会は正に今だった」

 そこで梅野十伍は、左手を伸ばして缶の中から紙巻煙草《ケレーブン》を一本ぬきだし口に咥《くわ》えた。そして同じ左手だけを器用に使ってマッチを擦った。紫煙が蒙々と、原稿用紙の上に棚曵《たなび》いた。彼はペンを握った手を、新しい行のトップへ持っていった。
 どうやらソロソロ彼の右手が機嫌を直したらしい、彼の頭脳《あたま》よりも先に。
「――梅田十八は、恐る恐る大広間に入りこんだ。彼はよく名探偵が大胆にも賊の棲家《すみか》に忍びこむところを小説に書いたことがあったけれど、本当に実物の邸内に侵入するのは今夜が始めてだった。そのままツツーと歩こうとするが、腰がグラグラして云うことを聞かなかった。やむを得ずまた四つン匍いになって、かねて見当をつけて置いた大机の方に近づいた。
 机の上を見ると、なるほど青い表紙の小さい本が載っている。一切《いっ
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