だろう。

 ――こんな風にして、密輸入者レッド老人とワイトマン税関吏の追いかけごっこを書いてゆくと、何処まで行ってもキリがない。しかし予定の紙数は既に尽きた。もう筆を停めなければならない。
 では、右の疑問符の答だけを書きつけて置こう。多数の真珠は鼠の胃袋のなかに押しこんであったのである。
 さあこれで一応結末がついたようであるが、まだ最も大事なことが一つ説明してなかった。それは本篇の表題であるところの「軍用鼠《ぐんようそ》」のことである。
 軍用鼠とは、軍用に鼠を使うことである。軍用犬にシェパードやエヤデルテリヤを使う話はよく知られている。軍用犬あって軍用鼠なからんや。
 軍用犬に比して軍用鼠の利点は頗《すこぶ》る多い。第一安価である。また繁殖力が大きい。非常に敏捷である。その上、甚だ携帯に便である。兵士の両ポケットに四匹や五匹入れて行ける。これを訓練して、一旦有事のときに使うときは、その偉力は実に素晴らしいものである。ただ一つ、鼠の欠点は鼻の頭が弱いことである。ここんところを箒《ほうき》でぶんなぐると、チュウといって直ちに伸びてしまう。だから軍用鼠の鼻の頭には鉄冑《てつかぶと》を
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