には得意の税関吏ワイトマンと、傷だらけになった丸卓子とが残った。
 既に朝となった。

 イヤ間違いである。一行あけてこの行に書くべきであった。
 既に本当の朝である。作家梅野十伍の朝である。いつの間に夜が明けたのか、彼はちっとも気がつかなかった。窓外に編輯局からの給仕君の鉄鋲うった靴音が聞えてきそうである。ところが輸入鼠の話は、まだ終りまで書けていないのだ。
 彼は、鼻の頭にかいた玉の汗をハンカチで拭いながら、原稿用紙の上にまたペンをぶっつけた。

 その翌朝となった。(国境の朝である。そして同時に梅野十伍の朝でもある――ああ面白くもない!)
 面白いのは、その早朝税関吏ワイトマンに対して本部から打たれた電文であった。
「昨夜ノ密輸真珠ハ、時価四十万るーぶりニ達ス。貴関ノ報告数ニ2倍ス。何ヲシテイルノダ。至急ヘンマツ」
 税関吏ワイトマンは床の上にドシンと尻餅をついた。愕きのあまり腰がぬけたのであろう。そんな筈はない。すべてを調べたつもりだった。あの二倍も真珠が隠されていたとは、実に喰いついても飽き足りなき老耄密輸入者レッド!
 一体その多数の真珠を、レッドは何処に隠して持っていたの
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