着せておかなければならない。
実は老人レッドから盛んに鼠を買いあげるラチェットなる人物は、この軍用鼠の研究家であった。彼の住む寒い白国には鼠というものが棲息していなかった。それでやむを得ず密輸の名手レッドを駆使して、紅国の鼠を輸入させたのだ。
真珠の密輸は、生れつきの密輸趣味者レッドが鼠をラチェットに売る片手間にこれに托して真珠密輸を企てたのであって、その所得は悉《ことごと》くレッドのものとなっていた。ラチェットはその真珠事件に無関係であった。
それなら紅国軍部は税関本部に通牒して鼠の輸入を黙許させればよかったと思うかもしれないけれど、そこがそれ軍機の秘密であった。鼠を輸入して軍用鼠の研究をしているということが国内官吏に知れても軍機上よろしくないのである。計略ハ密ナルヲ良シトスだの、敵ヲ図ラントスレバ先ズ味方ヲ図レなどという格言は紅国軍部といえどもよく心得ているのであった――というような結末まで、ゆっくり探偵小説に書いていると、いくら枚数があっても……。
丁度、編輯局の給仕さんが、颯爽《さっそう》たる姿を玄関に現わした。ではこれまで、ああとうとう書きあげたぞ。すがすがしい朝だッ
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