を感じた。あの図太い老耄《おいぼれ》奴《め》、鼠の輸入なんてどうも可笑しいと思っていたがなんのこと真珠の密輸をカムフラージュするためだったのか、よし今日こそ、のっぴきならぬ証拠を抑えて、監視失敗を取りかえさなければならない。彼はレッド老人が峠の向うから鼠の籠をぶら下げて姿を現わすのを、今か今かと窓の傍に待ちうけた。
 その日の暮れ方、税関の門がもう閉まろうという前、待ちに待ったレッド老人の声がやっと門の方から聞えた。
「旦那、すみません。きょうはどうも遅くなりましたが、一つ鼠をお調べねがいますぜ」
 ワイトマンは肩で大きな呼吸《いき》を一つして、机の上を食用蛙のような拳でドンと一つ叩くと、表の方に駈けだした。
 レッド老人は、昨日と寸分変らぬ鼠の籠を持って立っていた。
 ワイトマンは無言で老人を部屋のなかに入れた。そして入口の錠をガチャリとかけ、その鍵を暗号金庫のなかに収《しま》った彼は自分の手がブルブル武者慄いをしているのに気がついた。
 それから執拗な検査が始まった。消毒衣にゴムの手袋、防毒マスクという物々しい扮装でもって、ワイトマンは立ち向った。まず例の皮袋のなかに鼠を追いこんだ
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