いちょうそく》した。これで一と通りのフェアさをもって前篇の謎を解いた。しかし読者は、これだけの解決では、きっと満足しないだろうと思った。
 実はまだ彼はこの作の本当のヤマ[#「ヤマ」に傍点]というべきところを一筆も書いていないのであった。読者が怒らないうちに、すぐ後を続けなければならぬと思い、蒼惶《そうこう》としてまたペンを取上げた。
 税関吏ワイトマンが、本部からの通牒《つうちょう》を短波受信機で受取って、顔色蒼白となったのは、次の日の早朝のことだった。
「国境ヨリ 真珠ノ頸飾ノ密輸甚ダ盛ンナリ。此処数日間ニ密輸サレタル数量ハ時価ニシテ五十万るーぶりニ達ス。而《シカ》シテ之レ皆貴関ヨリ密輸セラレタルコト判明セリ。急遽《キュウキョ》手配アレ」
 なお三十分ばかりして、第二報の無線電信通牒が入った。
「密輸真珠ヲ検査ノ結果、げるとねる氏菌ヲ発見セリ。仍リテ鼠ノ所在スル附近ヲ厳重監視シ、可及《カキュウ》的速カニ密輸方法ヲ取調ベ、本部宛報告スベシ」
 ゲルトネル氏菌の登場、そして数十万ルーブリの真珠の頸飾の密輸。――犯人はレッド老人の外に心当りはない。
 ワイトマンは肝臓が破裂するほどの激憤
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